会長挨拶

藤原俊義

 癌免疫外科研究会は、1980年(昭和55年)、井口 潔 教授(九州大学第二外科)を会長として折田薫三 教授(岡山大学第一外科)が第1回を岡山の地で開催されました。以降、本研究会にはがん免疫に興味を持つ外科系の臨床医や研究者が集い、日頃の研究成果を発表するとともに、その分子機構や臨床応用を徹底的にディスカッションすることで、本邦のがん免疫研究の発展に貢献してまいりました。

 がん免疫研究の長い歴史には、多くのエポックメイキングな成果があります。1980年代の種々のサイトカインの遺伝子クローニング、リコンビナント製剤の製造、1991年のメラノーマにおける腫瘍特異的抗原の同定、2000年以降の樹状細胞や制御性T細胞(T-reg)の機能解析などはがん免疫療法の進歩に重要な役割を果たしてきましたが、最近ではやはりCancer ImmunotherapyがScience誌の2013年「Breakthrough of the Year」に選ばれる契機となったPD-1やCTLA-4などの免疫チェックポイント分子の発見とその阻害剤の臨床的有用性の証明が大きなインパクトを放っています。今や、免疫療法は外科治療、薬物療法、放射線治療に並ぶ第4の選択肢として日常診療に定着しており、私たちががん免疫研究を始めたころに夢見ていたこのような時代が現実のものとなってきています。ただ、残念ながら、まだすべてのがん患者さんが免疫療法の恩恵を受けられるわけではなく、より多くの患者さんに有効な広く深い医療に進化させるためには、まだまだ多くのトランスレーショナル研究あるいはリバーストランスレーショナル研究が必要です。

 外科医は臨床でがん組織に直接アプローチできることから、がん微小環境における免疫担当細胞の様々な活動を知ることができ、また外科治療を中心とする集学的治療を実践することで新たな複合免疫療法を考案することもできます。私が関わってきた遺伝子治療の技術も、最近注目されているキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)療法に応用されており、ウイルス療法も世界中で免疫チェックポイント阻害剤と併用の臨床試験が進んでいます。がん免疫療法には今、幅広い分野の研究成果が集約していると言えます。

 こういったがん免疫療法の大きな潮流の中、外科医が集う本研究会の重要性は益々増していくと考えております。特に、がん克服への大きな飛躍の原動力となる若手外科医の方々にご参加いただきたいと思います。がん免疫を学び、がん免疫を知り、がん免疫を語らえる研究会として発展していけるよう、会員の皆様のご支援・ご鞭撻を心よりお願い申し上げます。

2021年(令和3年)6月

癌免疫外科研究会 会長 藤原 俊義

(岡山大学学術研究院 医歯薬学域 消化器外科学 教授)